自分が直近で一番しんどかったとき、どんなことを考えていたっけ、とぼんやり思い出しながら
しんどいから俯瞰した。俯瞰して、しんどい現実から逃げ出したかった。俯瞰していれば、そのうち今の苦しみがテレビの中の他人事みたいになって、自分は当事者なんかじゃなくって、苦しい思いもしなくなるんだろうと。そんな風に気持ちに逃げ道を作っては現実に引き戻されて肩を落としてたあの日々。
何度も、何度も想像した。この苦しい現状を乗り越えて笑っている自分を。大したことなかった、過ぎ去ってみればいい経験だったくらいに笑っていられる自分を何度も想像した。
ろくに根拠のない自信に任せてそんな未来を妄信できていたころはある意味幸せだったけれど、希望と現実との境は次第に見えてくる。目に浮かぶ自分と、鏡に映る今の自分とのギャップに背筋がうすら寒くなった。
薄氷を踏む感覚。
厚いと思っていた氷の層が、実はあまりに頼りないものだと分かってきてしまったら…?あるいは、安全な道を歩いていると思っていたのに、いつの間にか周りは深い谷底になっていて、凍てつく風を頬に浴びたとしたら…?
それでも止まるという選択肢は自分にはなく、進み続けなければいけないとしたら…?
漠然とした不安は、積もりに積もったその不安は、ある朝突然、現実のものとなった。
氷が割れた。
足元が崩れた。
進みたいのに、そのためにはまず這い上がらなければならないのに。
そうあがけばあがくほど、足場は崩れる。
這い上がりたい意思とは裏腹に、体はどんどん深みに落ちてゆく。
手に入れたと思ったものに見限られた感覚。
だけど、それを少なくとも他人に悟られたくないというプライドは生き残っていた。
平気なふりをする。
何でもないふりをする。
少しくらいうまくいかない?あー相変わらずうまくいかないんだよなあとか言ってごまかす。
私ができることをできなかった人が、私のできないことをできるようになる。私のできることなんて、実はとっくにできるようになってた。
置いていかれる。
この場にいることがしんどい。指一本で崖っぷちで踏ん張っているくせに、さも平気そうに振る舞う自分との落差にめまいがする。胃が丸ごとひっくり返りそう。
この上さらに悪化するなんて、クレバスに落ち込むようなもの。死に体で引っかかって息してる。もう自分という存在が部品ごとにばらばらになりそう。今まで必死にかき集めて保ってた私のジェンガ。ジェンガを崩さないように守ってきたはずだけど、今や私もジェンガの一部で。崩れるときはもろとも。
ずっと逃げ出したかった。早くこのまま時が過ぎて。ろくに頭も動かず手も動かず視界も悪いこの状態で、まんじりとしているなんて、断頭台の下で順番待ちをしているみたいだった。
最後には起き上がってもすぐ眠るようになって、起きているときでも意識にもやがかかって心が動かなくなった。自分はこのままどうなってしまうんだろう。白っぽくぼやけた脳内に様々なイメージが浮かぶ。眉に包まれたような姿。うまく付加することができるのだろうか。それともこの繭のなかで、ドロドロに溶けてしまうのだろか。
そんないろいろなイメージを思い浮かべながらまたうとうとした。
あの日々。